■イントロダクション■
なんとなく、海と空のスカッとした感じを描きたくて、絵を描いたんだけど、みんな微妙な反応しか返してこない・・・。
私の絵には、いったい何が足りないのだろうか?
会社名や本人の名前を出すことはできないが、ある講座において「売れる企画を作るための3大要素」というものを教えていただいた。
その要素というものが、以下に記す3つである。
(1) 主題
(2) 戦略
(3) 技法
もともと、会社内で企画を出す際にどうすればいいかといった類の話ではあったが、この3つの要素の概念はあらゆる創作過程の考察にも応用できると考えた。
そこで今回、この3大要素なるものを、”企画づくり”という概念だけを”絵の制作”として再解釈するものとして、当時のメモを見つつ上司から教えられた言葉のとおりに紹介したいと思う。
(1) 主題
主題とは、「伝えたいこと」です。
その絵を見た人に何を伝えたいのかを短いワードで明文化できるくらいにハッキリさせておきます。
主題をぼんやりとさせたまま絵の制作に入るのは自由であり、むしろ一般的には意識されないものなのですが、結果として出来上がる絵は何を言いたいのかがよく分からない、中途半端で自己満足的な作品になってしまうかもしれません。
主題は、なにもお堅い法律のような文章にする必要はありません。
こいつのかっこよさを出したいだとか、躍動感を出したいだとか、思い出の風景からくる懐かしさを伝えたい、夏っぽさを表現したい、透視図法の効果を伝えたいなど、人によってあらゆる見方の主題が出てくるでしょう。
主題は非現実的でもよく、抽象的でも良いのです。
ただ、どの部分が非現実的なのか、何が抽象的であるかといった問題ははっきりさせておかなければなりません。
主題については、大切なことが1つあります。
それは「一度決めたら絶対に変えてはいけない」ということです。
もちろん、構図が難しすぎて下書きの段階で主点の位置を変えたり、ポーズを変更したりすることは多々あるでしょう。
そのときにでも、例外なく、主題だけは変更してはいけません。そうした変更の影響範囲は、後述する「戦略」および「技法」だけにとどめる必要があります。
主題が変わるということは絵自体が変わることと同義であり、ころころ変わるような主題は「弱い主題」であると判断されます。自分自身が自分の本当に描きたい=伝えたいものを意識できていないということです。
弱い主題自体に罪はありませんが、これに慣れてしまうと説得力がなくなるばかりか、絵の表現力全般を狭めてしまう恐れがあり、自身が感じた感情や印象を「言葉の絵」として描いていく力がつかなくなってしまうでしょう。
主題は主観的であり、あなた以外の何者にも左右されることはありません。
(2) 戦略
戦略とは、「主題を分かりやすく伝えるための工夫」です。
主題は主観的といいましたが、この戦略は対をなすように客観的な性質をもっています。そのため、時代や環境と主題との組み合わせによっては、社会との調和をみながらも、うまい戦略を探していく必要が生じることもあるでしょう。
戦略をより分かりやすく説明するために、例として主題を「海と空の広大さ」と決定し、モチーフを海岸から見える水平線ととらえて絵を描いていくことを考えてみます。
海と空の広大さを絵として表現するのは非常に簡単です。画用紙の中心に大きく1本の直線を描き、下側を海、上側を空として単純グラデーションで塗りつぶせば良いでしょう。
ところが、お察しのように、こうして出来上がった絵は主題を伝える力がほとんどなく、製作者の意図したような印象とは程遠いものを見る側に与えてしまいます。少し大げさですが、これは「戦略」が足りていなかった1つの例です。
この場合、よく採用される「戦略」とは何かを考えてみます。
海と空の広がりを出したいのであれば、カメラは少し上向きにし、空の占める範囲を大きめにとるというのはどうでしょうか。これによって、水平線となる1本の線は画用紙の中心より少し下側に位置し、どこまでも抜けるような空の広がりを表現できます。
次に、空を単純グラデーションで塗りつぶすだけではなく、入道雲や飛行機雲を設置して高さを演出します。雲海から差し込む光で奥行きを出してもいいかもしれません。
太陽光のきらめきや雲の影は海の広大さも良好に演出してくれるでしょう。逆光というひねりのない構図を避けるのであれば、あえて雨をふらす暗い雲を設置したり、遠くに島やタンカーを浮かべてみたり、灯台などの建築物をフレームインさせても良いかもしれません。
以上のような戦略をとることで、「海と空の広大さ」という主題は絵を見る者により強く伝わるようになります。
世の中にはあらゆる戦略があふれており、それらを真似したり、それらに影響されたりすることはとても大切なことです。
ただし、先述したように「主題」だけは何が何でも変えてはいけません。なかなか海と空の広大さを演出できないばっかりに、灯台や港、停泊する船を大量に設置してしまったおかげで、主題がいつのまにか「港町っぽさ」に変化してしまった場合、本人はそれで満足してしまっても、当初描こうとしていた絵は「死んだ」ことになり、「描くことができなかった」ということになります。
(3) 技法
技法とは、「戦略を実現させる方法」です。
戦略の定義と重ねて考えると、技法とは「主題を分かりやすく伝えるための工夫を実現させる方法」です。
一般的に、絵を描くための手法である透視図法、カメラ構図法、黄金比などがよく知られた技法の例となります。
先ほどと同じように、「海と空の広大さ」を主題とした絵を例として考えてみましょう。
空の奥行きを演出するときには、雲を設置して奥行きを出す戦略がある、と述べました。ただ、単純に雲を設置しただけでは平面的な印象を与え、せっかくの戦略がうまく機能してくれません。
最低限、雲の形にみられるフラクタル構造と、1点透視図法の知識は必要でしょう。これに加え、水平線に近づくにつれ雲の底部は平らにする、入道雲は高さにより風の影響をうける度合いを変えるなどの知識を技法として応用させれば、より戦略の効果は強まり、主題もありありと絵の中に生きてきます。
「技法」は方法なので、伝授しやすく、絵のうまさにも直結する魅力性をもっています。
そのためか、技法だけでなく戦略もまとめてパターン化されたものも多く存在し、どの絵をみても同じ主題しか伝わってこないような例があります。描いた絵の数だけ主題は異なるはずなのに、そうなってしまっては非常にもったいないでしょう。
技法は戦略をうまく伝えるための方法でしかないことをしっかりと理解し、核となる主題を忘れないようにして、技法を慎重に選択できるようになりましょう。
※さいごに
単純に絵の練習をもくもくと行う場合、とかくするうちに主題と戦略を忘れがちになります。
小さなプロジェクトであっても、必ず上記の3つの要素は何かを意識しながら創作にとりかかることで、いわゆる「本気絵」の制作時に自分自身が成長していることが実感できると思います。
いろいろな人の絵をみることは、絵の上達に必要不可欠なことです。
しかし、単純に「わぁうまいな」と感じただけで、さっさとウィンドウを閉じてしまうのはいかがなものでしょうか。
絵を見て感動したのであれば、いま見ているその絵を今回紹介した3つの要素に分解し、どの要素について自分自身の感性が反応したのかを丁寧に考えていくことがとても大切です。
絵は強力な情報伝達手段の1つで、幅広い表現を行うことができます。
ぜひとも主題+戦略+技法のベストな組み合わせとその応用をマスターし、あなたの心の声を世界に対して大きく叫ぶことができるようなクリエイターになってください。
なるほど、すごく参考になる。
返信削除この3大要素は覚えやすくていろんなことに使えるね。
今後は自分で絵を描くときや他人の絵をみるとき(もちろん、絵に限らず他のことにも)にこの考えを適用してみようと思います。
主題について、美術部で初めての油絵のモチーフを選んだときの先輩との会話を思い出した。
先輩「なんでこのモチーフにしたの?」
私「ん~、なんとなくですかねぇ」
先輩「なんとなくで決めるとなんとなくな絵にしかならないよ」
という会話。この記事の主題のことを伝えたかったんだと思います。
当時はこの言葉にけっこう衝撃を受けて、後付けというか、「なんでこのモチーフを選んだんだろう」と考え直しました。この話は別記事としてその時描いた油絵と一緒にもう少し詳しく書いてみます。
この3大要素の考え、「3第要素」と書いてしまえばそれぞれの要素が独立しているような印象を受けますが、ヒエラルキーを構成しているシステムに整理できるね。
ヒエラルキーの考えとこの「3大要素」の考えを合わせれば絵を構造化できると考えました。
技法・戦略・主題を取り込んだ絵
―戦略・主題を取り込んだ絵
――主題のみの絵
という風になるかと思います。ヒエラルキーの発生源は「主題のみの絵」で、それを補助するために「主題のみの絵」をサブシステムとして「戦略・主題を取り込んだ絵」と発展しています。
具体例にある海と空の絵をヒエラルキーのあるシステムに整理すると、
技法・戦略・主題を取り込んだ絵
―雲のフラクタル構造
―一点透視図法
―水平線に近づくにつれ雲の底部は平らにする
―入道雲は高さにより風の影響をうける度合いを変えるなどの知識を技法として応用
―戦略・主題を取り込んだ絵
――カメラは少し上向き
――空の占める範囲を大きめにする
――入道雲や飛行機雲を設置する
――太陽光のきらめき
――雲の影
――暗い雲
――遠くの島
――タンカー
――灯台などの構築物をフレームイン
――主題のみの絵: 「海と空の広大さ」を伝える絵
―――画用紙の中心に線
―――単純グラデーション
こんな感じになるかな。実際に絵に描いてみたいけど、手元にその環境がないのが悔やまれる・・・